誰がトップなのか曖昧な組織〜日本的風土・煩悶する山本司令長官・海軍兵学校の先輩・後輩と海軍の上下関係〜|リメンバー・パール・ハーバー13・真珠湾奇襲攻撃

前回は「後輩に押し切られる山本司令長官〜思い切った作戦と変わらぬ人事・軍令部の思惑と第二航空戦隊・揺れる軍令部の権限〜」の話でした。

目次

誰がトップなのか曖昧な組織:日本的風土

南雲忠一 第一航空艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

優れた軍人であるも、航空戦・空母ど素人の南雲長官。

航空艦隊のことは、
よく分からぬが・・・

そして、「南雲長官の補佐役」である参謀長は、草鹿龍之介・第一航空艦隊参謀長。

草鹿龍之介 第一航空艦隊参謀長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

さらに、草鹿龍之介・第一航空艦隊参謀長を補佐するのは、源田実・第一航空参謀。

源田実 第一航空参謀(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社)

このように、階層化されたシステムによって、「ボトムアップ式に判断する」ことが真珠湾奇襲攻撃の舞台です。

源田・第一航空参謀が、

この場面では、
Aであるべき!

と言えば、草鹿参謀長は、

ふ〜む・・・
ならば、Aでいくか!

と言い、

南雲長官、
Aで行きましょう!

と草鹿参謀長が言えば、

じゃ、
そうしよう!

ということでした。

ならば、最初から源田実が第一航空艦隊の司令長官であれば、「分かりやすい」のです。

ところが、「ちゃんと神輿が必要である」日本的風土。

南雲長官は「司令長官というよりも御神輿」という状況でした。

煩悶する山本司長官

及川古志郎 海軍大臣(Wikipedia)

年功序列とも言える海軍承行令=「先任順序」を、絶対に曲げない及川海軍大臣。

「先任順序」を乱すことは、
絶対にできぬ!

何度言ったら
分かるんだ!

山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

山本長官は、悩みに悩みます。

南雲はもともと航空専門ではなく、山本は南雲とはウマが合わず、ロクに口をきく間柄ですらありません。

真珠湾奇襲攻撃は、日本海軍のみならず「日本の運命を左右する」超重要作戦。

そして、この作戦を実施する「最高責任者」である航空艦隊司令長官の人事。

こんなことで・・・

こんなことで
良いのか?

山本長官は考え込みます。

左上から時計回りに、山本五十六 連合艦隊司令長官、永野修身 軍令部総長、伊藤整一 軍令次長、山口多聞 第二航空戦隊司令官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社、Wikipedia)

連合艦隊・海軍省・軍令部の幹部のほぼ全員が、海軍兵学校出身という環境。

日本海軍を会社に例えれば、「会社の社員ほぼ全員が、同じ大学出身」という環境です。

この環境では、どうあっても「大学の先輩・後輩の序列」がずっと続きます。

これは、息が詰まるような環境だったでしょう。

海軍兵学校の先輩・後輩と海軍の上下関係

海軍兵学校卒業期職責名前
28軍令部総長永野修身
31海軍大臣及川古志郎
32連合艦隊司令長官山本五十六
36第一航空艦隊司令長官南雲忠一
37南遣艦隊司令長官小沢治三郎
39軍令部次長伊藤整一
40第二航空戦隊司令官山口多聞
海軍兵学校卒業期

南雲か・・・

海兵36期卒業の南雲忠一は、海兵32期卒業の山本長官の4期後輩。

4期違うと、もはや「完全な上下関係」があります。

そして、32期卒の山本長官の4期上が28期卒業の永野軍令部総長。

永野修身 軍令部総長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

「4期の違い」は中高一貫校で、中学1年生と高校2年生の関係。

海軍兵学校はいわば大学的な位置ですが、これだけの期の違いは大きいです。

南雲なんかに
任せて良いのか?

小沢か山口ならば、
任せられるのだが・・・

本当は司令長官には小沢治三郎か山口多聞になってもらいたい、山本長官。

「36期の南雲の代わりに、40期の山口が長官」が不可能なのは、山本も理解できます。

まあ、山口が長官というわけには
行かぬが・・・

ところが、36期の南雲と37期の小沢は「一期しか違わない」のです。

「一期の違い」は、学校ではある種「絶対的な違い」ですが、社会人では「同じ」です。

「一期の違い」で、どうのこうの言っている状況こそが「おかしい」状況でした。

何がなんでも、この奇襲攻撃は
成功させねばならぬ・・・

第一航空艦隊(ビッグマンスペシャル 連合艦隊上巻 勃興編 世界文化社)

この奇襲攻撃が「バクチ」であることは、山本長官自身が最もよく分かっていました。

空母を1,2隻
撃沈されるかもしれぬ・・・

最新鋭・歴戦の軍艦が混在している「第一航空艦隊」は日本海軍の中心であり、「日本海軍の顔」でした。

戦艦大和(Wikipedia)

まだまだ大艦巨砲主義が中心であった当時、「日本海軍の顔」は間も無く完成する「戦艦大和」です。

ところが、「航空隊の未来を見ていた」山本長官。

空母・航空隊が、
これからの海軍の運命を左右する・・・

ことを誰しも理解していました。

その「空母を出来るだけ保全し、米太平洋艦隊の本拠地・ハワイに痛恨の一撃を与える」ことは至難中の至難の技。

第一航空艦隊司令長官は、
我が海軍のベストの人材を当てたい・・・

「海軍兵学校の先輩・後輩」の上下関係の中、奇襲攻撃成功に万全期したい山本は煩悶し続けます。

新地球紀行

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