海軍内部の深刻な亀裂〜条約推進派と艦隊派の熾烈な争い・日米の格の違い・永野総長の謎の信念・海軍を追われた堀と「追った一派」の南雲・肝胆相照らす仲・山本五十六と堀悌吉〜|リメンバー・パール・ハーバー14・真珠湾奇襲攻撃

前回は「誰がトップなのか曖昧な組織〜日本的風土・煩悶する山本司令長官・海軍兵学校の先輩・後輩と海軍の上下関係〜」の話でした。

目次

日米の格の違い:永野総長の謎の信念

山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

乾坤一擲の真珠湾奇襲攻撃作戦。

伊藤整一 軍令部次長(Wikipedia)

この作戦は、投機的要素が
強すぎて、危険です。

軍令部としては、南方資源地帯確保
優先です!

危険なことは、
私が一番承知している!

だが、やらねば、
ならぬのだ!

我が海軍は、世界二位の力を
持つと言っても良いだろう・・・

だが、世界一位の米国・米海軍は
別格なのだ!

世界の原油生産量 1940年(歴史人2021年8月号 ABCアーク)

原油の生産量は圧倒的であった米国。

日本の軍需物資の依存度(歴史人2021年8月号 ABCアーク)

さらに、軍需物資は「完全に米国頼み」だった大日本帝国。

どう考えても、「米国は格が違う」存在です。

普通に「せーの!」と米海軍と
戦って、勝てると思うのか?

いえ、
それはその・・・

「普通に戦って米国に勝てる」と考える人間は、正常な頭脳・神経ではないでしょう。

山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

真珠湾奇襲攻撃が裁可されぬなら、
連合艦隊司令長官を辞任します!

ついに啖呵を切って「禁じ手」に出た山本長官。

永野修身 軍令部総長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

まあまあ、山本。
そんなこと言うなよ・・・

山本が、そこまで言うなら、
やってみようじゃないか・・・

は?
何をです?

日本海軍の大長老格の永野軍令部総長が、登場しました。

まさか、
「なんとなく」作戦決定はないだろうが・・・

危惧する伊藤次長に対して、

ま、いいだろう。
真珠湾奇襲攻撃、やってみよう!

いえ、その・・・
いいんですか?

ここで、永野総長は持論の、

戦争は
やってみなければ、分からない!

という、合理性のかけらもない「謎の信念」で、山本長官の真珠湾奇襲攻撃が裁可されたのでした。

海軍内部の深刻な亀裂:条約推進派と艦隊派の熾烈な争い

及川古志郎 海軍大臣(Wikipedia)

押し切った・・・
あとは、作戦を成功させるのみ!

安心した山本長官でしたが、奇襲攻撃の中心:第一航空艦隊司令長官のポストが問題です。

第一航空艦隊司令長官は、
軍令承行令で南雲!

南雲ではなく、「空母生みの親」である
小沢にしたいのですが・・・

ダメ!
論外!

名前の通り「古いことを守る」ことしか能がない及川志郎 海軍大臣。

「先任順序」を乱すことは、
絶対にできぬ!

航空艦隊の長官は、
南雲!

南雲と言ったら、
な・ぐ・も!

南雲忠一 第一航空艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

戦争という大勢の方の生死に関わり、国家存亡に関わる事態。

まして、世界最強の超大国・米国に「戦争を吹っかける」真珠湾奇襲攻撃。

この後に及んでもなお、及川大臣は「考えを変える気配」すらない状況です。

本来、敵である米海軍に集中すべき山本長官。

ところが、「全く自分の思い通りにならない状況」となり、「敵が内部にもいる」状況に、

なんということ・・・

そもそも、荒々しい性格で知られる南雲忠一は、山本五十六とは性格が合いません。

南雲とは
気が合わないのだが・・・

山本とは盟友関係にある井上成美 第四艦隊司令長官。

海軍兵学校卒業期職責名前
28軍令部総長永野修身
31海軍大臣及川古志郎
32連合艦隊司令長官山本五十六
36第一航空艦隊司令長官南雲忠一
37第四艦隊司令長官井上成美
37南遣艦隊司令長官小沢治三郎
39軍令部次長伊藤整一
40第二航空戦隊司令官山口多聞
海軍兵学校卒業期
井上成美 軍令部第一課長(当時)(Wikipedia)

井上くん!

山本さん!

かつて海軍省では、米内光政・山本五十六・井上成美 の三人で「三羽烏」と呼ばれた仲の良さです。

その井上が、かつて軍令部 軍務局第一課長としていた頃の話。

当時、井上軍令部第一課長は、軍令部の権限を大幅に強化する法案に反対していました。

こんな法案
認められん!

廃案だ!

反対する井上に対して、痺れを切らした推進派の南雲忠一。

酔った勢いで、

井上の馬鹿!

貴様なんか殺すのは、
何でもないんだ!

短刀で脇腹をぐさっとやれば、
貴様なんかそれで終わりだ!

と詰め寄ったことがあります。

海軍を追われた堀と「追った一派」の南雲:肝胆相照らす仲・山本五十六と堀悌吉

山本五十六(左)と堀悌吉(右)(Wikipedia)

海兵36期卒業の南雲に対して、37期卒業の井上は「一期後輩」です。

いくら先輩・後輩の上下関係があっても、「言ってよいことと悪いこと」があります。

山本長官は職場で、こういうことは絶対に言いません。

南雲は、
一体何考えているんだ?

また、山本は海軍兵学校同期の堀悌吉と大変親しい仲でした。

「肝胆相照らす」とは、まさに山本と堀のためにあったような言葉でした。

そこまで言える、極めて良い関係だった山本と堀。

堀は非常に頭脳明晰で、
優れた人間性だ・・・

同じ海兵32期卒業で、山本は11番に対して、主席卒業の堀。

その堀を、山本は尊敬すらしていたのでした。

1934年のロンドン軍縮条約に海軍首席代表として出席する山本五十六(Wilipedia)

ロンドン軍縮条約の際に、米英に対して日本の艦船比率が抑えられそうになった時のこと。

日本海軍内で、派閥が二つに割れて、非常に大きな争いとなりました。

条約推進派は、馬鹿だ!
海軍の戦力を制限されて、どうする!

これ以上、建艦競争をしても、
日本には財政が厳しい・・・

「条約推進派」の堀に対して、「艦隊は出来るだけ多くすべきだ」という「艦隊派」の争い。

後に艦隊派が大勢を占めます。

条約推進派はクビ!
つまり予備役だ!

そして、堀は海軍を追われることになりました。

山本五十六にとって、それは痛恨時とも言えることでした。

山本五十六 連合艦隊司令長官(Wikipedia)

頭脳明晰で、人柄優れた
堀を予備役(クビ)にするとは・・・

一体
何考えているんだ!

堀よ・・・・・

この時、軍令部の幹部として「艦隊派」にいた南雲。

南雲も
堀を追った一味ではないか!

山本長官にとって「憎き奴」なのです。

やはり、
南雲は好まない!

南雲に「奇襲攻撃の司令長官を任せる」気持ちには到底なれない山本長官でした。

新地球紀行

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