前回は「マンションの欠陥調査と裁判〜「守秘義務」のベールに包まれた弁護士の世界・書類ベースで進行する裁判「調査報告書」・重要な専門家・建築士の意見書・相手方のストーリー成立を防ぐ〜」の話でした。
建築裁判の実情:建築のことが全くわからない裁判官が進行

弁護士の方に依頼されて、建築裁判に関してコンサルティングをすることがあります。
その際は、様々な裁判の書証や準備書面に対して、建築のプロの視点から様々なアドバイスを行います。
そして、依頼を受ければ「専門家の意見」として意見書や陳述書を作成して提出することもあります。
建築裁判の流れを見ていると、裁判官が「全く建築のことをわかっていない」ことが良くわかります。

設計や工事のことは、
全く分からない・・・



設計図書や
見積書を見ても、全然分からない・・・
という雰囲気が、伝わってきます。
裁判の傍聴をすれば、そういう雰囲気が分かります。
あるいは、原告と被告の準備書面から裁判の進行を見ていると、
なにか全然
噛み合っていないな・・・
と感じることが多いのが現実です。



原告・被告から
提出された証拠をもとに判断を下す!
裁判官の方々は「法律のプロ」であり、建築の方が全く分からないのは、当然のことでしょう。
それは止むを得ないと思いますが、ある程度は「裁判所側で専門家を用意して進行」すべきではないでしょうか。
裁判によっては、一級建築士などが「裁判官のアドバイザー」となることがありますが、非常に少数です。
多くの裁判は、



この点に関しては、
不知!



この点は
このようなことから否認する!
と弁護士同士が準備書面でやり合って、書面と書証をもとに裁判官は進行します。



それでは、これらの論点をもとに、
次回は原告が書面を出してください・・・
「建築のことが分からない」ならば、「建築裁判の進行は出来ない」と考えるのが一般的かと思います。
ところが、「分からない」裁判官は、原告と被告の書面をもとに判断を下します。
書面の整合性・合理性から、



原告と被告の
どちらのストーリーが信憑性が高いか・・・
を判断しているのでしょう。
証拠の信憑性を検証しない裁判の現場


この「裁判官が分からない分野の裁判を進行する」のは、裁判の性質上止むを得ないと考えます。
建築に限らず、実に様々な裁判が行われているのが現実です。
その中、裁判官がその分野を「分かる」か「分からない」かを前提にすると、途端に裁判官が不足するでしょう。
この「準備書面等をもとに進行」することは理解できますが、非常に不可解な点があります。
それは、「提出された書証が正」と見做して裁判が進行することです。



甲第25号証によると、
原告は・・・
と原告の主張は「審査対象」となりますが、甲第25号証などの「書証(証拠)」は正として扱われます。
そして、様々な建築裁判を見ていると、
この書証の工程表は、
明らかにおかしい・・・
と感じる書証も多々登場します。
あるいは、裁判である以上「損害額の主張」が大事なので、損害額が証拠として提出されることが多いです。
この見積書は
非常に不自然だ・・・
と感じる見積書もあります。
ところが、これらの書証や証拠は「正しい書類」として扱われて、その真偽が審査にはならないのです。
これは、物理的に考えて非常に不合理だと思います。
一級建築士の反論と科学者の反論:軽んじられる建築現場の意見


この「証拠や書証の信頼性を審査せずに正とする」ことは、非常に問題点があると考えます。
例えば、殺人などでDNA鑑定によって犯人が特定されることがあります。
その際は、



DNA鑑定から、
被告が犯人であることは明らか!
と科学者が主張し、この主張をもとに弁護士が文章を展開するのでしょう。
この「科学的根拠」は100%正しいと考えられますが、「100%正しい」のは難しいでしょう。
中には、



このDNA鑑定は
おかしい!



具体的には、
〜の点がおかしく、データもまた不整合がある!
という主張を別の科学者が展開することもあるでしょう。
こうした場合の具体的実例は知りませんが、一つの例として「専門家の意見の衝突」はあるでしょう。
この場合は、おそらく「双方の主張をもとに証拠の審査」がされるのではないでしょうか。
建築裁判においても、本来ならばこのような「専門家の意見の衝突」があるべきだと思います。
この見積書は
非常に不自然だ・・・
と考えた結果、「なぜ不自然なのか」や「法律に抵触する可能性」を建築士として指摘することがありました。
〜の法律に照らし合わせて、
この見積書は違法の可能性があります・・・
裁判官は「違法の査定」を下すことは非常に稀のようなので、「違法かどうか」は焦点にならないのはやむ得ません。
ところが、建築の専門家として私が主張したことに対して、相手の弁護士が、
必ずしも
〜とは限らない・・・
というような反論を下すと、「曖昧な空気」になります。
この「必ずしも〜とは限らない」みたいな「100%ではないが・・・」という論法で反論されると、裁判官は、



専門家の意見は尊重しますが、
相手弁護士が反論しているので・・・
という感じで、「一級建築士の反論」はスルーされる傾向があります。
これが、



専門家である一級建築士の意見に対して、
別の一級建築士は〜と主張していますが・・・
であれば、「専門家同士の主張の戦い」となり、分かりやすいです。
そして、私もまた大いに反論しますが、弁護士が「必ずしも・・・」では、こちらは反論しようがないのです。
このことは、建築現場や法に照らし合わせて、
確実に〜なのだが・・・
と思っても、相手の弁護士が「あやふやな根拠なき反論」を展開すると、曖昧になって未消化状態となります。
海外の裁判の状況は分かりませんが、この日本の裁判の「専門家の意見を軽視する」姿勢。
この状況は、早急に是正すべきであるでしょう。
次回は上記リンクです。