不自然な工事見積書が「証拠」となる裁判の現場〜損害賠償の根拠・大事な工事請負契約書の書類内容・減額が盛り込まれた「無意味」な工事見積書〜|建築裁判・不動産裁判

前回は「証拠の信憑性を検証しない裁判の現場〜建築裁判の実情・建築のことが全くわからない裁判官が進行・一級建築士の反論と科学者の反論・軽んじられる建築現場の意見〜」の話でした。

目次

大事な工事請負契約書の書類内容

新地球紀行
工事契約書(新地球紀行)

建築の工事を行う際には、上の写真のような「工事請負契約書」を発注者と受注者(ゼネコン・工務店)の間で結びます。

契約書一式には、最も重要な契約書とともに、約款や設計図書、見積明細書などが一緒に綴じられます。

このように分厚い「工事請負契約書」はマンションやビルなど比較的大規模な建築の際に作成されます。

個人邸などの場合には、簡単な書式となり厚さもだいぶ薄くなります。

工事請負契約書に「工事金額の根拠」となる見積明細書等が一緒なのは当然ですが、設計図書も重要です。

それは、「設計図書の内容の建築物を建築する」ために費用であり、設計図書こそが金額の最も重要な根拠となります。

実際、建設業法第19条には、建設工事に関する工事請負契約書に関して明記されています。

建設業法第19条:工事請負契約書

建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

一 工事内容

二 請負代金の額

三 工事着手の時期及び工事完成の時期

五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

建設業法では十六の項目が挙げられていますが、その中で重要なのは上に挙げた五点です。

設計図書はこのうち「一 工事内容」に該当する、最も重要な書類となります。

不自然な工事見積書が「証拠」となる裁判の現場:損害賠償の根拠

新地球紀行
工事現場(新地球紀行)

建築裁判・訴訟の場合、ほとんど全ての場合において、損害賠償請求が発生します。

原告側は、

被告のせいで、
これだけの損害が発生した!

だから、〜円の
損害賠償を請求する!

と原告代理人が主張します。

裁判においては、証拠や書面が最も重視される傾向があります。

実際、建築設計や建築工事のことなど「何も分からない」裁判官が裁判を進行します。

その際に、「損害賠償額の根拠」を提示する必要・責務が原告にはあります。

もし、「損害賠償額の根拠」が提示されていないと、

原告の損害賠償額の
根拠はなんですか?

と裁判官から問われてしまいます。

そして、「損害賠償額の根拠」がなかったり不十分であると、

原告は主張を補充する
義務があります・・・

と、原告の主張が通ることは、ほとんどないのが実情です。

裁判のベテランである弁護士は、そうした事実を把握しているので、

「損害賠償額の根拠」が
必要だ!

と考えます。

この「損害賠償額の根拠」として最も明確なのは、「損害賠償額が明確に示された書類」となります。

すると、「損害の原因である工事を行うための費用」が書面で記載されていることが大事です。

「損害賠償額の根拠」として、
「損害賠償額をまとめた書類」が欲しい!

すなわち、損害を是正するための
「工事見積書」があれば良い!

弁護士が、こう考えることは非常に自然な流れです。

すると、上記のような「しっかりと製本された見積書」ではなくても、「工事見積書」を作成する方がいます。

建築設計や工事に関して経験豊富な建築士や、それに類する方ならば「工事見積書を作成」することが可能です。

建築訴訟においては、そのような「損害を是正するための工事見積書」が頻繁に登場します。

ところが、それらの工事見積書には不自然な点が多数あります。

不自然な点が多数ありますが、それらは裁判において、書証・証拠として提出されると有効となります。

書証・証拠に関して、その真偽を査定することがほとんどない裁判において、

この工事見積書は
正しいのだろうか・・・

という議論は一切なされず、

原告の損害額の主張の根拠は
この工事見積書です!

と「工事見積書」の金額がベースとなって裁判は進行します。

減額が盛り込まれた「無意味」な工事見積書

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工事契約書(新地球紀行)

そうした「裁判の為に作成された」工事見積書は、プロが作成しているので、書式も内容もある程度整合性があります。

この工事見積書に関して、弁護士や裁判官を含めた「建築の専門外」の方が見れば、

これは、工事見積書として
しっかりしている!

原告側の弁護士は、バッチリと言わんばかりに「工事見積書が証拠」として被告を攻めます。

たしかに、こうして
明確に金額が記載された証拠だと・・・

被告側の弁護士は、「工事見積書の妥当性」が分からないので、ある程度は「ベースとして」考えざるを得ません。

すると、「金額の妥当性」を争うしか方法はありません。

この全額が認められるのではなく、
損害から、一部の〜くらいが妥当ではないか・・・

という主張をせざるを得ない面が多いでしょう。

そうした「裁判の為に作成された」工事見積書を、建築設計・工事の経験が豊富な一級建築士がみると、

なぜ、
この項目でこんなに金額がかかるのだ・・・

そもそも、この面積は
過大ではないか・・・

一目で不自然な点が多数あります。

その結果、

いくらなんでも、
高すぎる・・・

と思うことが多いです。

感覚的には、20〜40%程度高額であることが多いです。

中には、もっと実情とずれている場合もあります。

実際は、この「裁判の為に作成された」工事見積書に対しては、全額が認められることは原則ありません。

この「見積書の金額」に対して、
〜%程度で和解してはどうか・・・

判決に至るにしても、和解で終わるにしても、全額ではなく「一部が認められる」傾向が強い裁判。

すると、それを想定して「裁判の為に作成された」工事見積書は、

どうせ、裁判官に減額されるから、
少し盛っておくか・・・

という感じで、作成したとしか思えない見積書となります。

つまり、「実態ではない、金額が盛られた」見積書となります。

これは非常におかしいことだと考えます。

裁判の原則論でゆけば、「是正にかかるであろう工事費用」がベースとなるべきです。

それなのに、「減額を見越して金額を増額した」見積書がベースとなるのは、どう考えてもおかしな現象です。

これが、我が日本だけではなく、欧米ではどういう実態なのかは分かりません。

いずれにしても、「金額の根拠」となる書証・証拠が重要であるならば、「証拠」の見積書は実態を反映しているべきです。

このように「建築設計や工事がよく分からない」裁判官が、「よく分からない」書証・証拠を判断する建築裁判。

見積書などの書証・証拠に関しては、裁判所側が一級建築士等に任せて、

この工事見積書は
妥当なのかどうか?

「その是非」を判断すべきです。

そうではなく、「偽造された証拠」を元に裁判が進むことになってしまっているのが実情です。

この「日常感覚と大きくズレた」感覚で進む裁判の進行は、早急に是正されるべきです。

「分からない」ならば、「分かる専門家」に聞いて確かめて判決を下す。

それこそが、裁判所と裁判官に求められていることでしょう。

新地球紀行

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