建設業法違反の工事見積書が「証拠」となる裁判の現場〜裁判の証拠として最も適している「工事見積書」・工事見積書を作成する一級建築士〜|建築裁判・不動産裁判

前回は「不自然な工事見積書が「証拠」となる裁判の現場〜損害賠償の根拠・大事な工事請負契約書の書類内容・減額が盛り込まれた「無意味」な工事見積書〜」の話でした。

目次

裁判の証拠として最も適している「工事見積書」

新地球紀行
工事現場(新地球紀行)

世の中には様々なタイプの裁判が存在します。

僕が建築コンサルティングとして建築裁判の様々な現場に関わっている際に、

ぜひ、裁判を
傍聴してもらいたい・・・

という要望を弁護士から受けることがあり、その場合は傍聴にゆきます。

法曹界・弁護士の方々には「馴染み深い」でしょうが、普通の人には「縁がない」裁判所。

東京地方裁判所は、霞ヶ関の官庁街の一角にあります。

ここが
東京地方裁判所か・・・

依頼主・弁護士の要望とはいえ、40前後で初めて裁判所へ行った時は結構緊張しました。

さすがに、裁判所だけあって威風堂々とした雰囲気です。

裁判所の内部では、「どのような裁判が行われているか」を見ることができます。

裁判の内容・原告・被告の実名など様々な情報が検索できますが、その場でしか見ることができません。

僕の場合は依頼主から法廷の番号等聞いているので、検索する必要はありませんが、試しに見てみると、

ああ、こういう裁判が
行われているんだ・・・

と「裁判の世界」を垣間見ることができます。

私が関わる建築裁判は、ほぼ全てが損害賠償裁判です。

「瑕疵訴訟」は、どうしても「瑕疵を修繕するための金銭を求める訴訟」となる傾向があります。

原告のせいで、
これだけの損害を被った・・・

だから、これだけの損害賠償を
請求する!

建築の瑕疵などを争う場合、「瑕疵を復元することを求める」ことが最も適切であると考えます。

ところが、「瑕疵を修理するための金額」を損害賠償として求めることが多いのが現実です。

そして、損害賠償請求するときには訴状で色々と主張しますが最も大事なのは「書証・証拠」です。

それでは、
その損害賠償額の証拠を示してください・・・

と裁判官は「証拠を求める」ことになりますが、それは代理人の弁護士は分かっているので、

損害賠償額の
根拠はこれです!

大抵は、原告側の訴状と一緒に損害賠償額の根拠となる「工事見積書」が書証として提出されています。

この「工事見積書」が
損害賠償の根拠ですね・・・

工事見積書には様々な項目が細かな項目に分けられて記載されています。

この工事見積書は、私たち建築設計者が建設会社・ゼネコンに依頼して提出してもらって、査定します。

大体、建築設計に具体的に関わって数年見積書と接する機会を持つと、見積書のポイントがわかります。

この部分が
ポイントで、他社との比較になるな・・・

とか、

ここの数量は
少しおかしいかな・・・

と分かるようになるには、それなりの経験と年数が必要です。

ところが、建築工事に関わった経験がない裁判官が「理解できるはずがない」見積書。

裁判官としては、言葉と数字の羅列された数ページから10ページ以上の工事見積書を見て、

なるほど!
これが根拠ですね!

と納得する傾向があります。

すると、

原告の主張はストーリーが
しっかりしていて、正しそうだ・・

という心証を裁判官が持つことになります。

すると、裁判は原告に大きく有利になります。

このように建築裁判においては、工事見積書が損害賠償額の根拠として最も適していることになります。

工事見積書を作成する一級建築士

新地球紀行
工事契約書(新地球紀行)

建築の瑕疵を争う建築裁判の現場では、

改修・修繕工事を行うとすると、
いくらになりますか?

と工事を依頼する可能性がある建設会社やゼネコンから見積もりを取ることは可能です。

ところが、この修繕工事が裁判で争うことは事前に伝えるべきことです。

このことを伝えずに「あたかもすぐに依頼する可能性がある」かのように見積もり依頼すれば、建設会社は、

この工事を行うとすると
〜円となります・・・

現地調査を経て、2週間程度の時間をかけて詳細な見積書を提出してくれるでしょう。

この「建設会社が作成した見積書」を裁判に提出することは可能ですが、本来ならば、

実は、この改修・修繕工事をめぐって
裁判するので、見積書を作成して頂きたい・・・

と伝えるべきですが、それを聞いた建設会社・ゼネコンは、

裁判に関わるのは
面倒だ・・・

しかも、裁判の結果が出るのは
1〜2年先だから、すぐに受注はない・・・

こう考えると、建設会社・ゼネコンにはメリットはなく、デメリットだらけなので、

そういう事態でしたら、
弊社では見積もりは出来ません・・・

おそらく断ってくるでしょう。

誰だって、争いごとや裁判に巻き込まれることは嫌なのです。

そこで、

建設会社・ゼネコンは見積書を作ってくれないから、
私たちが作成します・・・

瑕疵を調査する会社に所属する一級建築士たちは、「工事の大体の想定」を行なって工事見積書を作成します。

そして、その「工事見積書」が裁判所に書証・証拠として提出されます。

ところが、この見積書は「金額を少し多めにしている」傾向があります。

どうせ、裁判官に減額されるから、
少し盛っておくか・・・

と見積もり作成者が考えるからです。

これだけでも「工事見積書」としての証拠としての正当性を欠くと思います。

さらに、工事見積書を作成するのは、建設会社・ゼネコンの実務者ではなく「大体を想定して」建築士が作成します。

建築工事現場や工事見積書をたくさん見てきた経験豊富な一級建築士なら、「大体の工事の費用」は想定できます。

ところが、僕は工事見積書を査定する自信はありますが、しっかりした「見積書を作成する」のは難しいです。

「あるものを査定する」のと「作成する」ことは全く異なるからです。

このように裁判に提出される「工事見積書」の正当性は非常に疑わしいですが、実態としては証拠となっています。

そして、この「工事見積書」という書証・証拠は、影響力が大きいのが現実です。

建設業法違反の工事見積書が「証拠」となる裁判の現場

新地球紀行
工事契約書(新地球紀行)

このある一級建築士が作成した「工事見積書」は疑わしいですが、まだ良い方だと考えます。

もっとひどいケースになると、工事見積書とセットで偽造した工事契約書を書証・証拠として提出する弁護士がいます。

損害賠償額の
根拠としては、見積書も良いが・・・

工事契約書であれば、
さらに信用性が増す!

と弁護士は考えるのでしょう。

この時、ある方を被告とする建築裁判で、原告と第三者の建設会社・ゼネコンで工事請負契約書を結ぶケースがあります。

このケースは「工事を行うとしたら、これだけの損害賠償額が発生」ではないです。

被告に対して、

被告のせいで、これだけの工事が
発生した!

と既成事実を作成して、被告に損害賠償額を請求するケースが現実にあります。

つまり、「被告は知らない」のに、原告と第三者で工事をでっち上げて、「工事請負契約書を締結」するケースです。

見積書だけでも裁判官は、

きちんと数字が書かれていて、
算定根拠が明確だ・・・

と高く評価する傾向がありますが、それに契約書がセットになっていると、

原告と第三者で契約が結ばれているから、
これは事実だ!

と裁判官は事実認定することになります。

この「裁判官の思考」を知っている弁護士は、

損害賠償請求の
根拠となる契約書を作ってください!

いや、あれは時期的には
もう終わっていますが・・・

終わっていても良いので、
工事契約書を作成してください!

と要求する傾向があるようです。

建設業法第19条:工事請負契約書

建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。

一 工事内容

二 請負代金の額

三 工事着手の時期及び工事完成の時期

五 請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めをするときは、その支払の時期及び方法

十二 工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法

建設業法では、建築工事請負契約書に関して厳密に定めています。

さらに、国交省が発行している「ガイドライン」には、

工事請負契約は、
原則として着工前とする!

と明記されています。

これは当然のことで、工事請負契約書は「工事着工前」でなければなりません。

「工事着工前」に契約が結ばれなければ、請け負った建設会社・ゼネコンは、

工事はするけど、
きちんと代金をもらえるのだろうか・・・

不安で仕方ないでしょう。

ところが、実際にあったケースでは、「工事着工後契約」の契約書が裁判所に提出されたケースがありました。

ひどいケースでは「工事完了後に工事請負契約書締結」という書類もありました。

こういう工事請負契約書をみると、私たちは一目見て分かります。

これは、日付が工事が着工した
後なので、偽造した契約書だ!

なぜ一目でわかるかというと、私たち設計者が設計図書を作成する時は、日付を非常に気にするからです。

図面は頻繁に変更になるので、「いつの図面なのか」は非常に大事だからです。

私たちからすると大事な日付ですが、契約書の日付は小さな字で書いてあるので、裁判官は気づかないでしょう。

すると、明確に建設業法に違反している「着工後契約書」が裁判の証拠・書証となりうるのが現実です。

このような「明確な法律違反」である書類が証拠・書証となる裁判の現場。

早急に専門家が入って、証拠・書証の信憑性をはっきりと判定する必要があると考えます。

新地球紀行

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

目次