設計会社作成の「明らかに過大な」工事見積と建築裁判〜損害額の根拠となる「工事見積書」・とても大事な損害額の根拠〜|法曹界の謎4

前回は「建築裁判の証拠となる設計会社作成の「無意味な」工事見積書〜とにかく書証と証拠重視の裁判・因果関係とストーリー〜」の話でした。

目次

損害額の根拠となる「工事見積書」:とても大事な損害額の根拠

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建築工事見積書(新地球紀行)

筆者は、一級建築士として、建築や不動産に関する紛争や裁判に関する業務も行なっています。

他の紛争・裁判と比較して、「金銭が中心」である事が多いのが、建築や不動産に関する紛争・裁判です。

どんな裁判でも、因果関係とそれを立証する書証・証拠が重要であるのが裁判です。

裁判において重視されること

・原告と被告の主張における因果関係やストーリー

・原告と主張が提出する書証と証拠

例えば、建築裁判・紛争では、原告側が建主・建設会社・不動産会社など、いずれの場合でも、

原告側弁護士P

A社は、B社のせいで、
〜円の損害を受けました。

原告側弁護士P

その損害の根拠は
この工事請負契約書です!

損害を立証するための「根拠となる書類」が、裁判所に必ず提出されます。

裁判官A

この工事請負契約書の
金額が、損害額とピッタリ一致しますね・・・

これらの「損害の根拠となる書類」に記載された金額、またはそれらを合算した金額が「損害額」です。

工事請負契約書及び支払い明細があれば、流れは分かりやすいです。

建築裁判では多くの場合、「支払う前の想定される損害」が根拠となります。

そして、その「損害額を請求する」損害賠償請求が、提起されることがあります。

この場合は「まだ行っていない工事」なので、当然のことですが、工事請負契約書は存在しません。

損害賠償請求における重要なポイント

・原告が主張する因果関係・ストーリー

・損害額の根拠となる書証:工事請負契約書や工事見積書

損害賠償請求で最も大事なのは、因果関係と損害額の根拠となる書証です。

因果関係が重要なのは当然ですが、「損害賠償額の根拠」が薄弱だと、

裁判官A

なぜ、損害賠償請求する
金額が〜万円なのですか?

裁判官A

それが書面で明示されないと、
裁判は進みません!

裁判官は、裁判を進めてくれない傾向があります。

ここで、設計会社が作成した「工事見積書」が登場することがあります。

原告側弁護士P

B社によって、A社は損害を受けて、
この工事を発注する予定です・・・

原告側弁護士P

この「未来に発注する予定の工事」の
見積書は、これです!

この「設計会社作成の工事見積書」を提出すると、

裁判官A

損害賠償金額の根拠が、
この書面ですね。

裁判官の理解が得られ、原告提訴の審議は速やかに進行します。

設計会社作成の「明らかに過大な」工事見積と建築裁判

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工事現場(新地球未来紀行)

筆者は、建築紛争・建築裁判の現場で、多数の「設計会社・設計事務所作成の工事見積書」を見ました。

原告側弁護士P

とにかく、損害賠償額の
根拠となる書類が欲しい・・・

「書面が重視される」というよりも、「書面を中心として進行する」のが裁判です。

裁判所で、原告と被告の当事者、代理人と裁判官が話し合う場を「期日」と呼びます。

この「期日」においては、

裁判官A

原告の〜の主張に関して、
被告は反論がありますか?

このように、裁判官が「裁判の指揮」を採ります。

裁判が進行するにつれて、

被告側弁護士S

原告の〜の主張は
不合理です!

原告側弁護士P

そんなことはありません。
被告の主張こそ不合理です。

このように代理人同士で、様々なやりとりが行われることもありますが、

裁判官A

主張は書面にして、
行ってください。

裁判官の姿勢は「とにかく書面」である傾向が強いです。

ここで、損害賠償額の根拠となる「未来の工事の工事見積書」を作成する設計会社は、

設計会社Y

いつも、工事見積のチェックをしていますから、
工事見積書を作成できます!

「チェックする」ことと「作成する」ことの間には、巨大な違いがあるはずですが、

原告側弁護士P

それならば、
設計会社Yさんに、見積書作成をお願いしましょう!

このように、原告自身または、原告代理人から「見積書作成」を業務として設計会社が受注します。

そもそも、工事に限らず、「見積書」とは「受注する可能性を前提」として作成されるべきものです。

設計会社Y

私たちは、工事を請け負うことが
出来ません。

設計会社Y

そして、私たちは工事を請け負う
つもりもありません。

設計会社Y

でも、工事のことは分かるので、
工事見積書を作成可能です!

確かに、設計会社や建築士は「工事監理」と呼ばれる「工事現場の監理」を行います。

そのため、「工事のことは、ある程度分かる」のは事実ですが、「工事の設計サイドの面」です。

そもそも、大抵は「週に1回、2〜3時間程度」工事現場を「設計者としてチェック」する建築士。

現実問題として、工事のことを「どこまで理解できているか」は、かなり不透明です。

このように「設計会社作成の工事見積書」は、「かなり怪しい」存在であります。

そして、中には一目見て「明らかに過大」である工事見積書もあります。

原告側弁護士P

損害賠償額が満額通る
ことは、極めて少ない・・・

訴訟内容にもよりますが、損害賠償額として請求した金額の「満額が通る」ことは、ほぼありません。

裁判で認められるのは、高くても「請求額の70〜80%程度」です。

このため、損害賠償請求を提起する原告側からすれば、損害賠償請求額が「高い方が良い」です。

設計会社Y

損害賠償請求の根拠となる
工事見積書だから・・・

設計会社Y

少し盛って、
高額にしておくか・・・

このような設計会社の意図を感じることも多い、「不当に過大」な工事見積書も存在します。

「設計会社作成の工事見積書」に対しては、裁判所はその信用性をしっかり評価すべきです。

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