建築裁判の証拠となる設計会社作成の「無意味な」工事見積書〜とにかく書証と証拠重視の裁判・因果関係とストーリー〜|法曹界の謎3

前回は「いとも簡単に「書面のミス」とする不思議な弁護士たち〜「とにかく書面」で淡々と進行する裁判・書面での「静かな戦い」〜」の話でした。

目次

とにかく書証と証拠重視の裁判:因果関係とストーリー

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東京地方裁判所(新地球未来紀行)

これまでに多数の建築裁判や不動産裁判に、建築専門家の立場で関わってきました。

裁判において、最も重視されるのは因果関係と書証・証拠です。

裁判において重視されること

・原告と被告の主張における因果関係やストーリー

・原告と主張が提出する書証と証拠

これは、裁判官や弁護士などの法曹関係者の方にとっては、当たり前のことと考えます。

一方で、一級建築士として裁判に関与する立場の筆者からすれば、因果関係が重要なのはわかりますが、

Yoshitaka Uchino

因果関係は、多くは
双方の主張のストーリーです。

Yoshitaka Uchino

それぞれのストーリーが
因果関係の「原」と「結」を説明します。

文字通り「原と結」を説明する因果関係は、双方の書面によるストーリーとも言えます。

「何らかの原因」があったために、「問題となる結果」が発生したのが裁判です。

そのため、「因果関係の重要性」は理解できますが、

Yoshitaka Uchino

因果関係を説明するストーリーは、
全て「正しいこと」が前提となります。

そのため、原告や被告が主張することに、専門家から見れば、

Yoshitaka Uchino

これはおかしい・・・
不自然過ぎる・・・

このように感じることが、沢山あります。

不自然であったり、不合理である事実であっても、それが分からない裁判官は、

裁判官A

なるほど、
そういうストーリーなんですね・・・

裁判官A

そのストーリーならば、
因果関係は分かりますね・・・

原告または被告が主張する「ストーリー」を正しいものとして、認識する傾向があります。

原告と被告にとっては、いわば「戦争」である裁判。

その裁判においては、原告と被告の双方において「多少の嘘」は「やむ得ない」かもしれません。

ところが、この「嘘」が一線を超えて、「多少」ではなく「過大な嘘」であることも見受けられます。

建築裁判の証拠となる設計会社作成の「無意味な」工事見積書

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建築工事見積書(新地球紀行)

そして、損害賠償額請求の立証を行う必要がある原告側は、多数の証拠・書証を提出します。

損害賠償額の証拠・書証

・工事請負契約書

・工事見積書

・設計図書や仕様書 など

原告側弁護士P

A社は、B社のせいで、
〜円の損害を受けました。

原告側弁護士P

その損害賠償額の
根拠は、この工事請負契約書です!

損害額の根拠としては、工事請負契約書が「最も強い存在」です。

日本における六法

・日本国憲法

・民法

・刑法

・商法

・民事訴訟法

・刑事訴訟法

「六法全書」という言葉がある通り、日本の法律は六法が基本となります。

そして、刑事裁判等は別としても、損害賠償事件などの民事事件では、民法が重視されます。

裁判官A

民法は
法律の根幹です!

裁判官は、他の法律よりも民法の重要性が高いと判断する人が多いと感じます。

そして、民法の中でも「契約行為」は非常に重視されるため、契約書は強い存在です。

原告側弁護士P

B社によって、
A社は損害を受け・・・

原告側弁護士P

新たな工事を発注せざるを
得ず、この金額を支払いました!

原告側弁護士P

支払い明細は
この書面です!

「既に支払った」と主張する場合は、その支払明細書も証拠として提出されることが多いです。

このように、「実害=現実に支払った金額」がある場合は、証拠として分かりやすいです。

ところが、裁判においては、「支払う必要があるであろう金額」を損害として請求する場合があります。

原告側弁護士P

B社によって、
A社は損害を受け・・・

原告側弁護士P

A社は、そのために
〜の工事を発注せざるを得ない・・・

原告側弁護士P

その工事は、未来に発注する予定ですが、
工事の見積書は、これです!

このように、原告が建物の瑕疵の修繕などが理由で、「必要である工事の見積書」が登場します。

とにかく、「どのような理由で、いくらの金額を請求したいのか」を明確にする必要がある損害賠償事件。

原告側のストーリーが、ある程度明確で、「明確な金額」が見積書として提示されると、

裁判官A

なるほど、
この見積書が根拠ですね・・・

裁判所は、作成された工事見積書を「正しい請求金額」として認める傾向が強いです。

ところが、これらの「未来の工事見積書」は」、建設会社ではなく設計会社が作成することが多いです。

原告側弁護士P

A社は改修のために、
将来に御社に工事を発注する可能性があります。

原告側弁護士P

まずは、裁判で損害賠償請求したいので、
見積書を作成頂けますか?

仮に工事会社が、「未来にするかもしれない工事」の見積書の提出を打診されても、

建設会社X

将来に「発注するかもしれない」
工事ですか・・・

建設会社X

ということは、当面の
発注はない・・・

建設会社X

しかも、裁判に提出されるから、
何らかの責任が発生すると困る・・・

なんのメリットも感じられない、「未来の工事見積書」は、なかなか建設会社は出してくれません。

そもそも、工事見積書は作成するのに、一定の手間もかかるので、

建設会社X

そんな見積書を作成しても
デメリットしかない・・・

建設会社にとっては、「メリットがない」どころか「デメリットしかない」工事見積書作成となります。

おそらく、多くの建設会社は「発注が不明であり、責任が発生する可能性がある」工事見積書作成に対し、

建設会社X

申し訳ありませんが、
うちでは見積書作成を受けかねます・・・

その作成を断るでしょう。

原告側弁護士P

困った・・・
工事見積書を作成してくれる建設会社がない・・・

すると、裁判の「大事な証拠・書証」である、工事見積を作成する組織がなくなり、原告は困ります。

設計会社Y

ならば、私たちは工事のことが
分かるので、工事見積書を作成しましょう!

原告側弁護士P

設計会社が、工事見積書を
作成出来るのですか?

設計会社Y

いつも、工事見積のチェックをしていますから、
大丈夫です!

ところが、設計会社の中には「自信満々で工事見積書を作成する会社」が存在します。

確かに、設計会社や設計事務所は、工事に関して相見積などで多数の見積書をチェックします。

そのため、「工事見積書がどういう書類か」は十分に把握しています。

ところが、設計会社は、工事見積書を「チェック」はしますが「作成」は難しいのが現実です。

そもそも、設計と工事は強い関係がありますが、「全然別の世界」です。

設計会社Y

はいっ!
私たちが作成した工事見積書です!

設計会社は、この「見積書作成業務」に対して、相応の報酬を得るのでしょう。

こうして、設計会社が作成した工事見積書は、到底現実に即した見積書ではないのが実情です。

ところが、この「設計会社作成の工事見積書」は、「工事見積書」の体裁を成しているため、

裁判官A

この工事見積書は
書証として、妥当ですね!

プロから見れば「イカサマ」の工事見積書でも、裁判では「正しい書類」として扱われます。

このような「偽装」とはいかなくても、少なくとも「問題がある書類」の存在。

証拠として提出される「書証の真偽性」も含めて、裁判所は責任もって査定すべきと考えます。

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