山本五十六長官の無理難題命令「日米交渉妥結なら奇襲攻撃中止」〜「甘い観測」に振り回される日本・悩む東條首相・山本長官の苦悩・「持てる国」米国と「持たざる国」日本〜|リメンバー・パール・ハーバー26・真珠湾奇襲攻撃

前回は「日米開戦へ向けて完全準備する米国〜交錯する東條首相の真意と山本長官の真意・明確な国家戦略・日米開戦の行方・ズレる日本政府と軍部の思考〜」の話でした。

目次

「甘い観測」に振り回される日本:悩む東條首相

New Global Voyage
左上から時計回りに、東條英機 首相、山本五十六 連合艦隊司令長官、南雲忠一 第一航空艦隊司令長官、永野修身 軍令部総長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本 新人物往来社、Wikipedia)

米国のルーズベルト大統領が「対日開戦」をハッキリ決意する中、日本は曖昧路線でした。

真珠湾奇襲攻撃直前の1941年10月18日に就任した東条首相。

天皇陛下から
「対米協調」を指示されている・・・

米国は、ずっと我らが中国などに
進出することに反対してきた・・・

新地球紀行
東條内閣:1941年10月18日(Wikiepdia)

後世から見れば、東條内閣が誕生した約一月半後に真珠湾奇襲攻撃となります。

本来であれば、

米国とは絶対に
戦争になる!

その準備を
万全にするのだ!

と指示するのが「東條内閣の役割」であるはずでした。

東條首相は内心では、

天皇陛下の御心は
極めて大事だが・・・

現実的に、対米協調は
難しいだろう・・・

こう考えていたでしょう。

そもそも、「米国の意向」に「協調」することは「陸軍の方針」とは真っ向ぶつかります。

米国の意向など聞いたら、
我が陸軍は統制つかん・・・

後世から見れば、

Tojoは侵略を推進した
Japanで最も悪党だ!

と「悪の権化」にされがちな東條英機。

実際の東條英機は、極めて真面目で天皇陛下への忠誠心が高い人物でした。

憲兵隊による国内統制を推進した東條首相でしたが、「どこまで悪党か」は見方によると考えます。

特別な才能は持っていなかったであろう東條でしたが、

現実問題として、
米国は超強力だ・・・

我が国が取るべき方針は
如何にあるべきか・・・

根は真面目で「よくメモを取った」と言われる東條首相は、苦悩を続けていたでしょう。

山本長官の苦悩:「持てる国」米国と「持たざる国」日本

新地球紀行
山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

「陸軍のボス」の東條首相が悩む中、山本五十六連合艦隊司令長官も苦悩していました。

まともに米国と
戦って、勝てるはずがない!

緒戦で、米海軍に
大打撃を与えねば!

そのための、
真珠湾奇襲攻撃だ!

「知米派」であり「親米派」に近い存在だった山本長官。

長らく、海軍省にいて航空本部長、海軍次官を務めた山本は、本来は海軍大臣になるべき人物でした。

ところが、

米国と戦う連合艦隊司令長官は
我が「日本海軍の顔」だ・・・

その「日本海軍の顔」は
山本しかいない・・・

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1934年のロンドン軍縮条約に海軍首席代表として出席する山本五十六(Wilipedia)

ロンドン軍縮条約に海軍代表として出席し、米国滞在経験もある山本。

Yamamotoは
ピカイチのJapaneseだ・・・

海外で”Japanese NavyのYamamoto”は、極めて高名でした。

そして、真珠湾奇襲攻撃決定を「強行した」山本長官。

とにかく、米海軍に
致命的ダメージを与えるのだ!

一方で、「米国との協調路線」を願っていた山本は、

だが、米国と話がまとまり、
戦争にならないことが最も望ましい・・・

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世界の原油生産量 1940年(歴史人2021年8月号 ABCアーク)

現代、原油・天然ガス・食料などが「うなるほどある」米国。

1940年当時は、まだ中東の原油生産が軌道に乗っていませんでした。

そのため、「世界の原油生産量の2/3ほどを占める」圧倒的な存在だった米国。

対して、「原油がほとんど出ない」日本。

原油がいくらでもある
米国に対して・・・

我が国は、原油がほとんど
でないのだ・・・

確かに、南方資源地帯を
獲得すれば、ある程度は賄える・・・

だが、南方を押さえたとしても、
原油の産出量は、米国とは比較にならん・・・

原油は陸海軍ともに重要ですが、中でも海軍にとっては「致命的に大事」でした。

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第一航空艦隊:旗艦 空母赤城(Wikipedia)

そもそも、いかに優れた戦艦・空母であろうと「原油がなければ動かない」のです。

原油がなければ「ただの鉄の塊」となってしまう海軍の艦船たち。

いくらでも原油がある
米国と本当に戦争できるのか・・・

「真珠湾奇襲攻撃」を強行推進していた山本長官は内心は苦悩して、迷いに迷っていたでしょう。

山本五十六長官の無理難題命令「日米交渉妥結なら奇襲攻撃中止」

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南雲忠一 第一航空艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

そして、海軍内で様々な混乱がある中、「真珠湾奇襲攻撃の責任者」となった南雲司令長官。

若い頃から、かなり強気で鳴らしてきた南雲は、年を重ねて「大人しめな性格」になりました。

本当に、空母六隻で
はるばる真珠湾を攻撃など出来るのか・・・

不安な南雲長官は、そもそも「真珠湾奇襲攻撃反対」でした。

私は、こんな投機的な
作戦は反対なのだが・・・

そもそも「水雷出身」であり、航空戦は「ど素人」の南雲長官。

それなのに、「空母六隻」という「空前の大航空部隊」の長官となりました。

それは「年功序列」の日本海軍の軍令承行令による人事でした。

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草鹿龍之介 第一航空艦隊参謀長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

南雲長官を補佐する「航空戦のプロ」である草鹿参謀長。

私も、そもそもこの
奇襲攻撃は反対だったが・・・

山本長官に「頼むから
反論しないでくれ」と言われたから・・・

山本長官に懇願されて、やむ得ず「消極的賛成」に回った草鹿参謀長。

海軍兵学校卒業期名前役職
32山本 五十六連合艦隊司令長官
36南雲 忠一第一航空艦隊司令長官
40宇垣 纏連合艦隊参謀長
41草鹿 龍之介第一航空艦隊参謀長
連合艦隊幹部の海軍兵学校卒業期(真珠湾奇襲攻撃)

そして、真珠湾奇襲攻撃へ向けて、「真珠湾と似た湾」である鹿児島の錦江湾で猛訓練しました。

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第一航空艦隊(ビッグマンスペシャル 連合艦隊上巻 勃興編 世界文化社)

空前の「正規空母六隻」の大機動部隊が編成され、真珠湾へ奇襲攻撃に向かいます。

南雲長官、草鹿参謀長・・・
頼んだぞ!

大部隊となった第一航空艦隊に大いに期待する山本長官ですが、

だが、日米交渉が妥結して、
対米戦とならないのが望ましい・・・

日米交渉妥結に期待していた山本長官は、心の中ではこう考えていました。

そして、南雲長官と草鹿参謀長に「無理難題」を言い渡しました。

単冠湾から真珠湾へ向けて
出撃することになるが・・・

日米交渉妥結の場合は、すぐに
打電するから、引っ返してこい!

つまり、「攻撃に向かうのに、途中で何もしないで引き返す」可能性に言及しました。

これには、さすがに南雲長官と草鹿参謀長は激昂しました。

ちょ、ちょっと待ってください!
山本長官!

出撃して、途中で引っ返すなんて、
出来るはずないじゃないですか!

もともと剛毅な南雲長官に至っては、

そんなのは、出かけた小便を
止めるようなもので・・・

出来るわけ
ありません!

これは、南雲長官と草鹿参謀長に理がありました。

ところが、

出来ぬなら、
今すぐ辞表を出せ!

・・・・・

・・・・・

「辞表出せ」の一言で、一蹴した山本長官。

こんな全てが無茶な作戦が、
ちゃんと成功するのだろうか・・・

何もかもが厳しいが、
大丈夫だろうか・・・

南雲長官も草鹿参謀長も内心は不満で一杯でしたが、山本長官には逆らえません。

それは山本が「連合艦隊司令長官だから」以上に「日本海軍の顔」であったからでした。

新地球紀行

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