「禁じ手」使う山本五十六連合艦隊司令長官と対峙する伊藤次長〜永野総長の甘い観測・異例のトップダウン決済・日米の意思決定の違い・米国の合理的判断と日本の感情的なノリ〜|リメンバー・パール・ハーバー5・真珠湾奇襲攻撃

前回は「山本五十六連合艦隊司令長官の「辞任」攻撃〜日本海軍のシンボル”Yamamoto”・機動部隊司令部の思惑・消極的賛成に回った草鹿参謀長・困った伊藤次長の「奥の手」・大先輩登場〜」の話でした。

目次

「禁じ手」使う山本五十六連合艦隊司令長官と対峙する伊藤次長

山本五十六 連合艦隊司令長官(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61新人物往来社)

しびれを切らして、遂に「奥の手=禁じ手」に踏み切った山本五十六。

ハワイ奇襲攻撃を
了承頂けないならば・・・

私は、連合艦隊司令長官を
辞任します。

伊藤整一 軍令部次長(Wikipedia)

困った伊藤次長。

「禁じ手」には
「奥の手」で応じるしかない・・・

大先輩に、
却下してもらうしかない

伊藤次長は、大先輩の永野総長に「真珠湾奇襲攻撃」案を潰してもらうしかないとと考えました。

山本長官が、
先輩風吹かせて、私の言うことを聞かないなら・・・

山本長官の先輩の、永野総長に
真珠湾奇襲攻撃案を潰してもらうしかない・・・

そして、永野総長に相談に行きます。

永野修身 軍令部総長(連合艦隊司令長官 別冊歴史読本戦記シリーズNo.61 新人物往来社)

永野総長。
この真珠湾奇襲攻撃は、メチャクチャです!

こんな博打みたいな作戦は、
軍令部としては認められません!

永野総長。
山本長官に断念させてください!

う〜む・・・

山本を可愛がっていた永野。

永野総長の甘い観測

・・・・・

永野は、ここで折れてしまいます。

山本が
それほど言うのなら・・・

いっちょやらせてみよう
じゃないか・・・

永野もまた、草鹿同様に「消極的賛成」へと転じます。

「自称天才」だった永野総長。

日露戦争では、めざましい活躍をしましたが、それは昔の話。

戦争は、
やってみなければ、分からない!

が「座右の銘」だった永野総長。

これは、合理的な米国や英国の将官から考えると、

やってみなければ、
Warの結果がわからない?

???
意味不明だ・・・

何考えているんだ?
Warは合理的思考で詰めてゆくのが筋だ・・・

となるでしょう。

いずれにしても、「山本可愛さ」と「やってみなければわからない」信念の永野。

その「永野独自の見解」から、総長決済に踏み切った永野総長。

ここには「合理的判断」のかけらもありませんでした。

えっ
・・・・・?

伊藤次長は「二の句が継げない」状況です。

却下してもらう予定が、真逆の方向になってしまい、もう取り返しが付きません。

こんなことに
なるとは・・・

考えも、
しなかったが・・・

「ミイラ取りがミイラになる」というか、真逆の結果になってしまった伊藤次長。

永野さんに
相談しない方がよかったか・・・

永野総長に相談したことを後悔する伊藤次長。

ところが、永野総長が、

山本の真珠湾奇襲作戦は
OK!

と総長決断をした以上、後には戻れません。

異例のトップダウン決済:日米の意思決定の違い

ボトムアップ式に意思決定されることが多い日本。

大抵のことは「根回し」があって、案が最高意思決定者に届く時は、

大臣(総長、長官)、
この案です。

うん。
まあ良いだろう・・・

と「承認されること」が既定路線であることが多い日本。

この日本において、「総長決断」という異例のトップダウンになりました。

ついに、真珠湾奇襲攻撃は、軍令部を通過したのでした。

Franklin Roosebelt米大統領(Wikipedia)

米国ならば米軍最高司令官である大統領が出てきて、話し合うことになるでしょう。

当時の日本の総理大臣は近衛文麿首相。

第34,38,39代内閣総理大臣:近衛 文麿 (Wikipedia)

この後すぐに、東條英機陸相の辞任によって倒閣してしまいます。

私は
軍部を押さえることができない・・・

「近衞」というサラブレッドの家系にあって、端正な顔立ちの近衞は昭和天皇に好まれました。

ところが、彼は政治家というよりは、学者・評論家的な性格でした。

とても、軍の人事に割って入る状況にはなかった近衞首相。

それは、「統帥権」と言う天皇に属する権限があったことも重要です。

戦前の憲法においては、日本軍の最高司令官は、形式的には昭和天皇だったからです。

大本営組織図(歴史人2019年9月号別冊 KKベストセラーズ)

その為、内閣総理大臣ですら軍の「軍の人事」に口を出せません。

むしろ、「陸軍が陸軍大臣を出さないと内閣が倒れる」という米英では考えにくい状況にあった日本。

海軍・軍令部の上層部全員が、山本の悲壮な決意・熱意に押し切られてしまいました。

そして、真珠湾奇襲攻撃案は「なんとなく」了承されるに至りました。

永野総長が
Goサインを出したらしい・・・

ちょっと投機的すぎる
奇襲攻撃だが・・・

まあ、
仕方ないか・・・

もはや、山本五十六が軍令部総長・連合艦隊司令長官を兼ねたかのような異常な状況でした。

私に
任せてもらおう!

この山本のゴネ得とも言える姿勢は、のちに大きな禍根を残します。

米国の合理的判断と日本の感情的なノリ

これが米国であれば、どうであったでしょう。

例えば、米太平洋艦隊司令長官のJackが、

俺の要望を聞いてくれなかったら、
辞任する!

と言ったとします。

そのJackが極めて優れた人物であれば、

まあ、Jack、
そう言うな・・・

と慰留するかもしれませんが、組織の権限・上下関係が明確な米国。

おそらく、海軍長官はこう言うでしょう。

そうか。
本人が嫌なら仕方ないな・・・

なら、
やめてくれ。

で「終わり」でしょう。

後任は
誰にする?

そして、合理的な米国は、合理的に人選をします。

後任の候補として、
DickとJohnとSteveがいますが・・

人物に対する好みも影響しますが、それぞれの適性を見極めた上で、海軍長官が決定するのでしょう。

なら、
Johnだな。

そして、辞令が出るのでしょう。

私の言うことを聞かないなら、
辞任する!

山本五十六が炸裂させた「辞任するぞ爆弾」。

・・・・・

この発想は、欧米の統治機構、特に軍部においては信じられない事態だったでしょう。

この「爆弾」に対する海軍高官の対応は、「いかにも日本的」でした。

そしてこの「日本的な一種異様なノリ」のまま、真珠湾奇襲攻撃へと向かっていくのでした。

新地球紀行

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