前回は「「不自然な工程表」が登場する建築裁判〜多数の書類や記録が発生する建築・「変更の連続」の建築工事現場〜」の話でした。
「明らかな瑕疵」と発注者の「支払う責務」:法の根幹である契約書

これまでに多くの建築裁判・不動産裁判に関わり、現在も多数関わっています。
建築裁判に限らず、裁判では書証・証拠が最重要です。
原告・被告のいずれが何を主張するにしても、

その主張の
根拠は何ですか?
裁判官は「主張の根拠」を求めるので、「根拠なき主張」に対しては、



その主張は根拠がないなら、
無意味ですね・・・
書面等の記録による書証・証拠不在の主張に対しては、裁判官は見向きもしません。
・設計図書(基本設計図書及び実施設計図書)
・施工図(実施設計図とは別に施工会社が作成
・確認申請書(大型の場合は、開発許可申請書等)
・建築確認済証及び完了検査済証
・条例などに対する申請書と許可証(受領書)
・工事中の記録写真
・工程表
・工事見積書
・工事請負契約書
・工事発注書(ゼネコンと協力・下請企業)
・工事に関わる職人等の労務管理書
建築設計と施工の現場では、上記のような多数の書類・設計図書・写真があります。
中規模のマンションの工事でも、膨大な書類があります。
裁判の中で、最も重要なのは「工事請負契約書」であり、



工事請負契約書は
これですね・・・



これ(契約書)がある限り、
請負者は履行する義務があり・・・



発注者は、それに対して
金銭を支払う義務がありますね・・・
建主(発注者)と施工者(工事請負者)が、工事を巡ってトラブルになることが多い建築裁判。
例えば、発注者側の視点から見れば、



こんな杜撰な工事を
する施工者・・・



是正を求めても無視するし、
明らかに「瑕疵」だろう・・・
専門家ではない、一般の人が写真を見て「明らかに瑕疵」である場合、



いくら契約書があっても、
満額払う気はしない・・・
発注者は「契約書通り支払いたくない」と感じます。
これは、「支払う側」の気持ちを考えれば、当然のことであり「多少の減額があるべき」です。
ところが、法理論では「減額すべき」または「減額交渉があって良い」論理は基本的にないです。
「明らかに瑕疵」であり「議論不要」であっても、



契約は契約!
発注者は支払うのが大前提!
法律論では「契約をした以上は、支払う責務」があり、ほぼ全ての裁判官は「支払うべき」と考えます。
「不自然な工程表」と土壌汚染・地中障害の謎


このように「瑕疵」が議論になることが多い、建築裁判ですが、「瑕疵の認定」には時間がかかります。



訴状に書かれた
瑕疵は沢山ありますね・・・



分かりにくいので、
「瑕疵一覧表」にまとめてください・・・
「瑕疵の議論」においては、「瑕疵一覧表の作成」が前提となります。



これは、作成するのは
大変だろうな・・・
建築士の視点から見ても、多岐に渡り、細かく記載された瑕疵一覧表。
これを、「建築の門外漢」である弁護士が作成するのは、大変な時間と労力がかかりそうです。
そして、瑕疵は、瑕疵一覧表を前提に一年以上議論される傾向が強いです。
一方で、工事施工者側が「損害を受けた」と主張する場合は、下記のようなことが多いです。
・予定外の建築工事の増加
・想定外の設備や仕様の変化
・建主側の問題に起因する工期延長
これらの「損害を発生させる原因」によって、「損害を受けた」ことを施工者が主張することがあります。
建設会社側の弁護士は、



被告のせいで、この工程表から
この工程表に変更になりました!



だから、被告のせいで、
こんな損害を原告は受けました!
このように、「工程変更と工事の遅延」を理由に、損害賠償請求をすることがあります。
工程表は専門的内容ですが、「期間が伸びている」のは素人でも分かるので、



なるほど、
ここからここに伸びたのですね・・・
裁判官も「工程表の違いによる損害」に対して、理解を示す傾向があります。
とは言っても、建主側によって「要望が変わる」のは、工事中に「当然想定されること」です。
これらの「工程の変化」を上手く捌くこともまた、工事請負者・ゼネコンの大きな役目です。
損害額を大きくするためには、「損害する要因を最大化」することが大事です。
この観点から、時々、不思議な主張をする弁護士がいて、



工程が伸びて、地中障害と
土壌汚染もあったので、さらに伸びました!
こう主張する弁護士が、実際にいました。
ここで、「地中障害と土壌汚染」は「建主とは無関係」ですが、



そういう事態に
なってしまったんですね・・・
一定のストーリーが通っていると、裁判官は理解を示す傾向があります。
「建主が原因で工期が延長」し、さらに「想定外の事態に追い込まれた」ストーリーです。
ここで、「地中障害と土壌汚染」は程度によりますが、工事には「多少の地中障害」はあります。
「土壌汚染」は「そうそうないこと」ですが、こう記載されると「工期延長」が分かりやすいです。
筆者は、この「建主が原因で、さらに地中障害と土壌汚染」と原告が説明した代理人に対して、



地中障害とは、
どのようなことですか?



地下を掘ったら、
大きな古いコンクリートの塊が出ました・・・
この程度のことは「想定内」であり、「工程を遅らせる」ほどではありません。



土壌汚染とは、
どのようなことですか?



汚れた土壌が
出てきました・・・



ならば、どこかの専門機関が
調査し、処理したはずです。



その調査報告書と
処理した記録を提示して下さい。



いえ・・・
調査や処理はしていません・・・
代理人弁護士は、こう答えて「証拠がないこと」を認めました。
裁判中に、書面で上記のような「やり取り」があり、原告主張の「土壌汚染」に対しては、



結局、どのような
土壌汚染だったのですか?
裁判官が「具体的内容」を求めました。



あの・・・
ちょっと変な色の土が出てきたのです・・・
「ちょっと変な色の土」は、土壌汚染とは言いません。



・・・・・
この結果、原告主張の「土壌汚染」は、否定される方向となりました。
工程遅延・変更に関して、地中障害や土壌汚染が登場したら、証拠を求めると良いでしょう。
次回は上記リンクです。