「理解できない」のに裁判を進行する裁判官〜裁判官に訴求する「建築調査報告書」の作成・境界が「明確過ぎる」米国と「曖昧な」日本〜|建築裁判・不動産裁判

前回は「偽造書類を証拠として認める裁判所と裁判官〜裁判官が考える「正しそうなストーリー」・国民が考える裁判所の役割・問われる裁判官の責務〜」の話でした。

目次

境界が「明確過ぎる」米国と「曖昧な」日本

New Global Voyage
東京地方裁判所(新地球紀行)

一般人には縁遠い存在の裁判所。

訴訟や紛争に巻き込まれない限り、裁判所と接点を持つことは少ないのが現実です。

そもそも、米国など異なり日常生活や業務において「弁護士が関わる」ことが珍しい日本。

例えば、米国では業務においては、

弁護士の〜です。
この件は、このような書面で契約しましょう。

契約がしっかりしていて、「契約内」なのか「契約外」なのかの境界が「明確過ぎる」のが米国です。

対して、「何事も曖昧」で「境界を明確にする」ことを避ける傾向がある日本人。

建築工事においても、工事中に多少の変更があっても、

このくらいは、
変更や追加工事費にしないで欲しい・・・

まあ、そうですね・・・
このくらいの金額ならOKです。

ということが日常茶飯事であるのが実情です。

米国で公共施設の設計を担当した方に話を聞いたことがありますが、

米国の建築工事で、
トラブルがあると、すぐに弁護士が出てくるんだ・・・

そして、「契約書にどう記載されているか」の
チェックが始まって・・・

「どちらの側に責任があるのか」の
話し合いが行われることが日常だ。

という話でした。

建築紛争においても「即裁判」というのは少なく、多くの場合、その前の話し合いが行われます。

その話し合いの場には、弁護士が入ることも入らないこともあります。

そして、どうしても「折り合いがつかない」時は、公的機関が入る調停になることがあります。

調停が入るかどうかはケースバイケースですが、いずれにしても「決着つかない時」は裁判になります。

日本政府が2000年代に、

日本の弁護士を増やして、
紛争をしっかり解決する!

と従来の司法試験の難易度を事実上「大幅緩和」して、弁護士を大量に増やしましたが、

思ったほど紛争や係争が
増えなかった・・・

日本政府の「想定外」に裁判・紛争・係争が増えなかったのが実情でした。

裁判官に訴求する「建築調査報告書」の作成

新地球紀行
工事現場(新地球紀行)

様々な裁判がありますが、訴訟において「求める金額が高額になる」傾向が強い建築裁判。

個人邸・住宅の建築瑕疵トラブルで、賠償額が数千万になることも多いです。

そして、集合住宅・マンション、工場などの建築瑕疵トラブルでは1億円を超えることが普通です。

この中、会社・組織の規模にもよりますが、訴訟では原告側も被告側も大変な苦労があります。

集合住宅・マンションの瑕疵裁判では、多くの場合は、

瑕疵を「ただ主張」しても
認められにくいので・・・

専門家の一級建築士に
依頼して、調査してもらいましょう!

代理人・弁護士が依頼主に説明して、調査会社に調査を依頼します。

これは、依頼主が「自主的に調査会社に依頼する」こともあるかもしれません。

一方で、一般人である依頼主で「調査会社の存在」を知っている方は少数であると考えます。

このため、建築裁判を得意とする弁護士には「取引のある調査会社」がいて、

いつも、この調査会社に調査してもらい、
しっかりした報告書を作成してもらっています・・・

ある程度費用はかかりますが、
ぜひ、この調査会社に依頼しましょう!

と弁護士に言われれば、依頼主は、

先生の仰る通りで
お願いします。

とならざるを得ません。

そして、弁護士から調査会社に依頼があり、調査会社は図面と現地調査から、様々調査します。

その結果、

たくさんの瑕疵が
あります!

具体的には〜と〜と・・・があり、
これだけあれば、強く主張できます!

今までに数多くの「建築調査報告書」を読みましたが、大体論点は似ています。

つまり、建築調査会社の視点から考えると、

瑕疵や問題点となる部分は、
大体決まっている・・・

と考えているのでしょう。

そして、これらの「建築調査報告書」は、非常に分厚い書類になります。

多数の図面・写真・法令・資料などを含む書類で、設計と工事業務に慣れた一級建築士が読めば、

ああ、これは
こういうことを論点にしているんだな・・・

と即座に分かりますが、一般の方が理解するのは困難でしょう。

「理解できない」のに裁判を進行する裁判官

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設計図書と模型(新地球紀行)

この一級建築士が作成した建築調査報告書を手にした代理人・弁護士は、

よしっ!
これで、裁判官に強く訴求できる!

と考えて、建築調査報告書をベースに訴状を作成すると考えます。

建築裁判・不動産裁判に詳しい弁護士の方もいらっしゃるようですが、多くの方は、

建築・不動産に関する法規には
かなり詳しい・・・

設計図書や工事のことも多少わかるが、
自分で瑕疵を判断するのは無理・・・

が現実でしょう。

一級建築士の中でも、設計専門の方、工事専門の方がいることが多く「設計と工事の両方が分かる」方は少数です。

さらに、住宅、マンション・集合住宅、幼稚園など学校、公共施設、ホテルなど多数のタイプがあります。

規模の大小もあり、一級建築士の業務も医師などと同様に「細分化される傾向」があります。

そのため、「設計・工事・法規・打ち合わせ・協議の全容を理解できる」一級建築士は非常に限られます。

ここで、「建築調査報告書」という強力な証拠を握った弁護士・代理人は、

被告が設計した建物には、
こういう設計瑕疵があります!

あるいは、

被告が施工した建物には、
こういう施工瑕疵があります!

と主張することが多いです。

これに対して、「書類・書証ベースで進行」する傾向が強い裁判では、

なるほど、書証・証拠と主張が
一致していて、合理性がありますね・・・

と考えます。

「建築調査報告書」という書証・証拠をベースに作成されている訴状。

他の分野の裁判等と比較すると、「書証・証拠との合理性」が高い傾向があると考えます。

すると、

これは、原告の主張が
正しいように感じるが・・・

多くの場合、「書証・証拠との合理性」が高い訴状は「極めて強い」傾向があります。

この事実は、法曹関係者の方から見れば「当然のこと」かもしれません。

一方で、私たち一級建築士・建築専門家、あるいは一般の方の視線から見れば、

そもそも、被告を訴えるために
作成した建築調査報告書なんだから・・・

被告・代理人の主張をベースにして、
建築調査報告書は作成されている・・・

だから訴状と書証・証拠となる
建築調査報告書の双方が密接につながるのは当然では?

と感じます。

そして、建築のことは「よく分からない」裁判官は、

建築調査報告書の写真を見ると、
多数の瑕疵がありそうだ・・・

と考えるのでしょう。

ここで、東京地方裁判所などには、裁判所から依頼されている一級建築士などがアドバイスするようです。

上記の通り、その一級建築士の方々が「どのような業務経験してきたか」によって大きく変わります。

その一級建築士が「何をどう判断できるのか」の「判断の度合い」が。

一方で、「同業者が作成した調査報告書」に対しては、多くの場合、

この調査報告書は、
正しそうです・・・

よほど「気に入らないこと」がない限りは、大きくは反論しないでしょう。

すると、

裁判所の一級建築士が「正しそう」というなら、
概ね正しいんだろう・・・

となるであろうことは、おおよそ予測出来ます。

このように、「理解できない」裁判官と「おおむね是とする」裁判所の一級建築士によって、

原告の主張が
正しいと考えて、裁判を進める!

となりがちな裁判。

ところが、この「建築調査報告書」には多くの場合、問題や誤りがあることがあります。

建築の設計は、従うべき法律などがありますが「一品生産」であり、自動車や工業製品とは異なります。

そのため、判断は「ケース・バイ・ケース」になることが多いです。

それにも関わらず、

この施工は、〜であるべきであり、
〜となっていないから瑕疵だ!

と建築調査報告書内の主張は、作成者の「思い込み」であることもあります。

裁判で建築調査報告書が登場した時は、経験豊富な一級建築士にしっかり判断してもらうと良いでしょう。

そして、しっかりとした意見書作成を依頼した方が良いと考えます。

相手の反論にも即反論できるように、信頼できる一級建築士に常に相談するのが良いと考えます。

一般的な損害賠償裁判と大きく異なり、「書証・証拠が理解できない」のに進行する建築裁判。

本来であれば、「書証・証拠の真贋性・妥当性」も裁判所が判断すべきだと考えます。

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