前回は裁判で法律違反は「どこまで許されるのか?」〜裁判で重要な「損害賠償額の根拠」となる書面・「全ては書面で」の裁判・損害賠償と建築基準法違反〜」の話でした。
建築裁判において重要な「一級建築士・専門家の意見書」

筆者は、これまでに多数の建築裁判・不動産裁判に関わった実績を持ちます。
一級建築士として、建築裁判・不動産裁判に関する、専門的事項のコンサルティングを行っています。
必要に応じて、原告及び原告代理人、または被告及び被告代理人に対して、専門的助言を行います。
また、裁判官に対して、自らの所見を意見書の形式にまとめて、裁判所に提出することもあります。
多くの場合、一つの裁判に対して複数回にわたり、意見書を提出します。
・設計図書(基本設計図書及び実施設計図書)
・模型写真やイメージパース
・確認申請書(大型の場合は、開発許可申請書等)
・建築確認済証及び完了検査済証(受領書)
・条例などに対する申請書と許可証(受領書)
・工事中の記録写真
・工事見積書
・打ち合わせ議事録
・様々な素材などのサンプル
・様々なメーカーから取り寄せた資料
設計及び施工においては、上のような書類・設計図書・写真などがあります。
そして、建築裁判や不動産裁判においては、これらの書類・設計図書・写真などが書証(証拠)として提出されます。
弁護士A原告の主張は
〜です。



そして、原告の主張の
書証は〜です。
このように、裁判においては「損害賠償裁判」など、具体的に「何を相手方に要求するのか」を明確にします。



原告の主張と
書証は、これですね。



被告は反論が
ありますか?



被告は反論を
書面で提出します。



それでは、次回期日までに
反論の準備書面と書証を裁判所へ提出して下さい。
このような流れで裁判が行われ、裁判における「原告代理人と被告代理人が出廷する」日を期日と呼びます。
そして、建築裁判・不動産裁判においては、私たち一級建築士・専門家の意見書も、書証の一部として提出されます。
「安全かどうか」を判断する「理学・工学に疎い」不思議な裁判官たち


かつて、建築裁判の損害賠償請求事件において、筆者が被告側のコンサルティングを行った経験の話です。
この時、「原告のゼネコンが建築した建物の安全性」が議題となりました。



被告は、原告が建築した建物の
構造的に安全ではない、と主張していますね・・・



それでは、その「安全ではない」根拠を
提示して下さい。
建物の安全性に関しては、一級建築士や建築構造の専門家の間でも、様々な意見があります。
建築設計の際には、「最低限の構造の安定性」を建築基準法が定めています。
一級建築士や構造技術者は、この「最低限」を上回り、ある程度の余力を持つように設計します。
この際、構造設計プログラムを使用して構造設計することになりますが、専門家の判断が重要です。
荷重(重さ)や地震力、あるいは安全性に関しては、専門家が判断する範囲があります。
そのため、「建物の安全性」は客観的に判断することは極めて難しいです。
「難しい」ですが、裁判で「安全ではない証拠」を求められた以上、提出する必要があります。
この時は、建物の詳細な調査を行い、その上で、第三者の構造専門家に意見書を依頼しました。



調査結果から、
この建物の安全性には問題がある!
当方が依頼したこともありますが、構造専門家の方は「安全性に問題あり」と意見書で明記しました。
これで「損害が確定した」はずでした。
ところが、裁判官は、



「安全ではない」という
結論ですか・・・・・



でも、「安全ではない」とは
言い切れないのでは?
なんと、「安全ではないとは言い切れない」という判断を下したのでした。
ほとんどは文系出身の裁判官。
なかには、理系出身の裁判官もいらっしゃると思いますが、ほとんどの裁判官は理系に疎いはずです。
理学も工学も縁遠く、基礎的な物理学の運動方程式すら理解していないはずの裁判官たち。
理学・工学の視点から考えたら、「無能者」である裁判官は、なぜか「安全性を判断」する権限があります。
これが、「裁判所の調停委員の一級建築士」などの判断であれば、まだ理解できます。
ところが、この時は「裁判官の独断」で「安全ではないとは言い切れない」と判断しました。
これは、実に不思議な現象であると、筆者は感じました。
裁判官の皆さんには、「理学・工学の無能者」であることを理解いただき、適切な判断を下して頂きたい。

