前回は「「不自然な要素が満載」の設計会社作成の工事見積書〜淡々と粛々と進む裁判・「損害額の根拠」と書面ベースの戦い〜」の話でした。
一品生産の建築における工事金額確定のプロセス

筆者は、建築裁判・不動産裁判のコンサルティングの業務も行なっています。
東京地裁のデータによると、世の中の裁判の中で建築裁判・不動産裁判の割合は大きいです。
そのこともあり、これまでに大小数十件の建築裁判・不動産裁判に関わりました。
建築裁判の多くは「損害賠償裁判」であり、一言で言えば「金銭トラブル」です。
一品生産の建築においては、自動車などの工業製品の売買と異なり、金額に対する認識のズレが起きます。
例えば、集合住宅(マンション)の建築工事においては、まずは設計者が設計図書を作成します。
その上で、多くの場合は数社の建設業者の相見積もりとなり、

この設計図書の内容で、
見積もりをお願いします。



この工事の工事見積書は、
こちらになります。
数社から工事見積もりを設計者が取り、設計者は見積書の査定を行います。
その上で、



工事見積書を査定し、
技量や実績を考えると・・・



X社に工事を
任せるのが良いと考えます。



総額〜億〜千万円
ですか。



それでは、X社に
お願いしましょう。



ご用命頂き、
有難うございます。
多くの場合は、設計者が推薦する工事請負業社に決まります。
ここで、設計のプロ=設計者、工事のプロ=工事業社にとっては、設計・工事内容が重要ですが、



設計や工事のことは
全然分からないが・・・



とにかく、金額が
重要だ!
建主にとって最も重要なことは「工事金額」です。
大規模建築においては、建主は借金して建築することが多いです。
個人・法人のいずれにしても、数億円〜の借金を抱えることは重大であり、



とにかく
予算内に収めねば・・・
建主にとっては、「予算内に収めること」が至上命題となります。



私たちに
お任せください!
このように、「設計内容と工事見積がセット」で工事業社に発注されます。
「設計施工」禁止の欧米とOKの日本:「大工文化」の日本


第三者として設計者が入る場合、このような「工事内容+工事金額の流れ」となります。
本来、「設計内容が確定しないと、工事費用が決まらない」のは当然です。
ところが、多額の費用がかかる建築においては、「金額が優先」となることがあります。
これは、「建主側の論理」からすれば当然であり、



なんと言っても
予算内でなければならない!
このように考える建主もいるのが現実です。
この時、「概要の設計図書を元に相見積」して、先に工事金額を確定する場合があります。



この設計図書だと、
概算で〜億〜千万円です。



それならば、
予算内に収まるから・・・



Y社に
お任せしよう!



設計も施工も
我が社にお任せください!
そして、このように「金額優先で業者決定」の場合は、ほとんどの場合「設計施工」となります。
これは、工事業者側の論理からすれば、



金額が先に決まっているので、
「設計者が別」では混乱する・・・



設計と施工を我が社が
管理して、金額も管理するのだ!
「設計施工体制」によって、工事金額の管理をすることになります。


中世には「建築家」という職能が明確にあった欧州と違い、我が国は、「建築家」がいませんでした。
建築は、「大工が行うもの」であり、「大工が設計者を兼ねた」のが我が国の歴史です。


我が国では、明治までは「設計図書は大工が作成し、施工も大工」でした。
この歴史において、日本の建築業界は形作られてきました。
そして、明治期を迎え、「建築家」の職能づくりのために、明治新政府は欧米を見習ったのでした。
欧米:「設計者=建築家と施工者=ビルダーは別」という認識
日本:「設計者=建築家と施工者=ビルダーは同じでも良い」という認識
現代でも、「設計者と建設会社(ビルダー)は分業」であることが明確に法律で定められている欧米。
これに対して、日本では、一部の大規模建築以外は「設計施工(設計者と建設会社は同一)OK」です。
この「設計も施工も同一会社が行う」ことが平然と行われている日本。
本来は、小さな分譲住宅などを除いては、「設計と施工は別であるべき」です。
そして、建築基準法などでは「設計者と施工者の管理(監理)体制」が明確に謳われています。
ところが、「別」であるはずの設計者と施工者が「同一でもOK」という、日本の曖昧路線。
この「設計施工体制」は建築裁判においても、多くの問題を生んでいます。
次回は、具体的な「設計施工の問題」の話です。