前回は「不利な状況を逆転する「契約書を叩く」戦略〜裁判において強力な存在である契約書と見積書・「正面奇襲」説が有力な桶狭間の戦い〜」の話でした。
「裁判の王様」である契約書:立証の根拠と苦しい戦い

建築裁判において、特に重要である工事請負契約書や見積書。
損害賠償裁判となるケースが極めて多い建築裁判では、

原告が要求する損害賠償額の
根拠はこれですね・・・
損害賠償額の根拠として、「最も分かりやすい」存在であるのが工事請負契約書です。



これだけの金額を原告は支払ったが、
被告は大きな瑕疵がある建物を建てた!



そのため、支払った金額は
損害となるので、賠償求める!
このような流れになることが多いです。
支払った金額が「損害」となってしまうため、「実害が発生している」ことになります。
この「損害の立証」として、「支払い伝票」等の「お金の流れ」の資料も提出されます。
これら「支払い伝票」は単なる「支払った事実」を示すのに対して、「損害の立証」としては、



この工事請負契約書さえあれば、
絶対に勝てる・・・
民法上「契約行為」は極めて重要であり、口頭の「諾成契約」も契約の一つと見做されます。
この超重要である契約が、最も記録として分かりやすい「双方の書面」である契約書。
このため、建築裁判に関わらず、裁判において双方の押印がある契約書は、極めて強い存在です。



契約書に記載された金額を
原告と被告は納得して押印したんですよね・・・
原告と被告が「納得して押印した」書類であるはずの工事請負契約書。
この工事請負契約書が登場して、多くの場合で原告は契約書を「損害の根拠」とします。
いわば「裁判の王様」的存在が契約書です。
このような建築裁判においては、原告代理人の弁護士は意気揚々と乗り込んでくる傾向があります。



絶対に勝てる「勝ち筋」の
裁判だ!



とにかく、事実をもとに
押せば良いのだ!
裁判を傍聴する際、原告代理人の口調や姿勢から、このような雰囲気を感じることがあります。
こうなると、被告側は「明らかに押された」立場となり、苦しい戦いとなります。
「時の流れ」を活かす裁判戦略:時系列の前後関係の精査


ここで重要なのは「時系列の前後関係の精査」です。
建築裁判においては、ほとんどの場合「時系列表」の提出が求められます。



書面も大事ですが、
時系列表を作成して提出してください。



そして、原告被告間で
双方で記入して整理してください。
原告と被告は代理人含め、「事件の前後関係をほぼ全て把握」しています。
一方で、裁判官にとっては、



事件の内容は書面で
理解できるが・・・



時系列の流れは
極めて重要だ・・・
このような状況であり、時系列表がないと「事件の流れと全容の理解」が難しいのが裁判官です。
ここで、工事請負契約書を最大の立証根拠としている原告側代理人は、



時系列表の流れは
これです!



工事請負契約書に記載された
日が契約日であることは明白です!



そして、その前後の
打ち合わせ議事録はこれです!



さらに、当時にやりとりされた
メールがこれです!
打ち合わせ議事録もまた「分かりやすい書面」であり、日時がはっきりと明記されています。
そして、「何をどう話されたか」が明記されているので「流れが分かりやすい」です。
この議事録に関しては、双方のサインがあるのが望ましいですが、



原告は被告にメールで
送ってあります。
このように、原告が作成して被告にメールで送っていると、



なるほど。ならば、
被告は承認しているのですね。
このように「メールを受けた」被告は「承認した」と認定される傾向が強いです。
さらに、「日時と内容」がハッキリ記載されているメールも証拠として強い存在です。



メールでこんな
話があったんですね・・・
こうなると、ますます「契約書を根拠とする」原告が強くなります。
特に建築工事においては、工程表が度々交付されます。
この工程表は「工事のみ」ではなく、「設計から工事のフロー」も重要です。
「いつ完成を目指すか」が極めて重要な工事において、「全体の流れ・フロー」は最重要事項です。
そして、これらの工程表は「度々更新されて、変更される」傾向があります。
そのため、建築裁判の際には工程表をしっかりと精査することが大事です。
工程表の精査は、時系列の流れの精査につながり、



ここのあたりが、工程表と
時系列表の整合性がないです。
このような「整合性がない」ことが登場することが多々あります。



なるほど・・・この工程表に記載された
前後関係と・・・



時系列表が
異なるのですね・・・



このあたりを
もう少し精査できますか?



ここが食い違うと、こちらの
話の整合性もなくなります。
このように「どこか不整合がある」と他にも「不整合が飛び火」する傾向があります。


日露戦争で、我が国が快勝した日本海海戦。
ここでは、東郷平八郎司令長官率いる幕僚たちが、念入りにバルチック艦隊の動きを読みました。





バルチック艦隊は、
対馬に来るのか、太平洋に出るのか・・・
バルチック艦隊が「対馬に出てくる」か「太平洋に出る」のかで、幕僚たちは、



素直に考えると
対馬ですが・・・



どうも太平洋に出る
可能性も高いようです・・・



・・・・・
バルチック艦隊が太平洋に出た場合、「太平洋がガラ空き」だった大日本帝国。
太平洋には首都東京があり、砲撃される可能性がありました。



・・・・・



バルチック艦隊を
日本海で迎え撃つ!
幕僚たちの意見と熟慮の結果、「正しい判断」をした東郷平八郎。
彼もまた、「時の流れ」を味方につけました。
裁判という戦いにおいても、「時系列表の精査」によって「時の流れを味方につける」のが良いでしょう。
次回は上記リンクです。