建築物と工業製品の建築・製造プロセスの大きな違い〜工事費への姿勢・自動車製造メーカー作成管理の「自動車の設計図」〜|法律違反と建築裁判3

前回は「『自分で自分をチェック』の不思議な設計施工体制における工事監理〜地震にも強く美しい日本古来の木造建築・大工が築き上げた文化と文明〜」の話でした。

目次

自動車製造メーカー作成・管理の「自動車の設計図」

新地球紀行
マツダ・ロードスター(Wikipedia)

建築物は、電気機器や自動車のような工業製品とは大きく異なります。

建築物や工業製品などは、基本的にまずは設計図書が作成され、それに基づいて製作されます。

例えば、日本には、トヨタ・マツダなど様々な自動車メーカーがあります。

それぞれの自動車メーカーには、多数の一次下請・二次下請などが存在します。

場合によっては、五次下請・六次下請などがいることもあり、ピラミッドのようになっています。

それらの様々な会社が作り出したパーツを取りまとめて、メーカーは自社で最終品を製造します。

マツダ

様々な業者に
協力してもらって・・・

マツダ

この自動車が
製造された。

マツダ

多くの業者の協力の賜物である、
この自動車は、マツダが責任持って販売します!

つまり、最終製品である自動車に対しては、マツダなどの自動車メーカーが最終責任を負います。

部材ごとのパーツの設計図書の作成や管理は、メーカーによって様々と思われますが、

マツダ

最終的な自動車の設計図は、
当然、我が社で作成・管理している!

自動車全体の設計図は、自動車メーカー自身が作成し、管理しているでしょう。

マツダ

自動車に関するパーツの設計図は
全て把握し、管理している。

そして、全てのパーツの設計図書は、別会社作成の場合も最終的に責任を持つメーカーが管理しています。

最も分業体制が整っている自動車と同様に、様々な工業製品も設計・製造されていると思われます。

建築物と工業製品の建築・製造プロセスの大きな違い:工事費への姿勢

New Global Voyage
工事現場(新地球未来紀行)

これに対して、原則として「一品もの」である建築物の設計・建築(製造)は大きく異なります。

原則として、設計者は建築士や建築家が行い、建築(製造)はビルダーが行います。

つまり、自動車などの工業製品と大きく異なるのが、「設計者と建築者(製造者)が違う」点です。

一般的に、建築設計者=「建築設計することが業務」と思われる傾向が強いと思われます。

その一方で、建築設計者には、設計業務と同等に重要な業務があり、それが監理業務です。

建築における建築設計者の役割

・設計:基本設計・実施設計など、設計を進めてゆき、設計図書を作成

・監理:設計図書通りに工事が進められているか、チェック・指示(変更等を含む)

建築設計者にとって、この設計と監理の業務が極めて重要です。

これらの設計と監理の業務の中で、膨大な設計図書や資料・記録を作成する必要があります。

設計・監理における書類・写真・記録など

・設計図書(基本設計図書及び実施設計図書)

・模型写真やイメージパース

・確認申請書(大型の場合は、開発許可申請書等)

・建築確認済証及び完了検査済証(受領書)

・条例などに対する申請書と許可証(受領書)

・工事中の記録写真

・工事見積書

・打ち合わせ議事録

・様々な素材などのサンプル

・様々なメーカーから取り寄せた資料

個人邸などの規模から、空港や施設など大規模な建築に至るまで、様々な建築の規模があります。

もちろん、規模が大きいほど多数の書類・記録が登場し、多数の人が関わります。

その一方で、比較的小規模である個人邸の規模でも、上記の資料や記録は大量になる傾向があります。

そして、「設計者と施工者(製造者)は別」であることが原則となります。

日本においては、設計者である建築士に対しては、建築士法が定められています。

そして、施工者であるゼネコン・工務店に対しては、建設業法が定められています。

上記のような、設計と施工のプロセスは、建築物がしっかりと作られるために全てが大事です。

ここで、建主にとっては、「建築物が設計図書通り作成される」のは「当然のこと」であり、

建主X

注文した建築物が
きちんと出来上がるのは当然・・・

そして、巨額の費用がかかる建築は、大きなビジネスです。

建主X

そして、必要となる
工事費の管理は、最も重要だ!

建築士や工事に関わるプロから見れば、「つくるプロセス」こそが重要です。

それに対して、発注者や建主から見れば、「支払う金額の対価が建築物」であり、

建主X

設計中に増額したり
減額したり、工事費は変わった・・・

建主X

そして、工事中に、私たちの
要望や追加もあって、工事中には増額となった・・・

建主X

「最終的に、いくらになるのか」が
支払う側にとっては最重要!

どんなビジネスであっても「結局いくらなのか?」が最重要です。

ここで、「設計者と施工者が別」である「本来の姿」であれば、工事費は厳格に管理される傾向があります。

それに対して、日本で多く認められている「設計者・施工者一体型」の場合は、

建設業者Y

金額は査定するが、
査定するのは自分自身・・・

「設計施工一体型」では、「設計者が行う監理・管理」を自分自身で行うので、

建設業者Y

まあ、大体このくらいの
金額査定で良かろう・・・

「自分自身が査定する金額」は、甘くなるのが当然です。

このように、「なんとなく曖昧」な日本的な雰囲気になると、工事費のトラブルにつながります。

実際、このような「曖昧な工事費管理」によって、建築裁判が行われるケースが多いです。

「言った・言わない」が多い工事費のトラブルの原因の一つが、この設計施工一体型にあります。

日本の建設業界は、この設計施工一体型に対して、もう少し厳格になるべきでしょう。

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