不利な状況を逆転する「契約書集中攻撃」戦略〜裁判において強力な存在である契約書と見積書・「正面奇襲」説が有力な桶狭間の戦い〜|裁判戦略と戦争2

前回は「不利な状況を逆転する「契約書を叩く」戦略〜契約書が超強力な存在である建築裁判・戦場の変更と真珠湾奇襲攻撃〜」の話でした。

目次

裁判において強力な存在である契約書と見積書

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建築工事見積書(新地球紀行)

これまでに多数の建築訴訟・建築裁判のコンサルティングを行ってきました。

建築訴訟・建築裁判は、多くが損害賠償事件となります。

その損害賠償の根拠は、工事費や解体費等「実際にかかった」費用です。

あるいは「実際にかかると見込まれる」費用となります。

裁判においては、証拠や根拠が非常に重要です。

工事費や解体費等「かかる費用」の根拠は、ほとんどのケースで決まっています。

それは工事請負契約書や工事見積書です。

裁判官

なるほど、原告の損害賠償額の
根拠は、この契約書の見積書ですね・・・

特に工事請負契約書が、原告・被告のどちらかから提出されると、裁判官は非常に重視する傾向があります。

裁判官

契約書は民法上、
非常に大事ですから・・・

様々な法律が交錯する裁判の現場では、なんといっても法律の根幹とも言える民法が最重要です。

「法的責任を伴う約束」と民法に規定されている契約。

そのため、裁判官にとって裁判進行する上で「民法がベース」となる傾向があります。

工事に関する見積書が、まだ工事未契約等によって「契約書内にない」場合もあります。

この場合は、主として原告側が工事業者等に見積書を作成依頼することがあります。

「後付けの見積書」は、「裁判のための書類」とも言えます。

そのため、この見積書の信用性は工事請負契約書よりも少し下がる傾向があります。

それでも、「数字(費用)の根拠」としては十分強いです。

不利な状況を逆転する「契約書を叩く」戦略

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工事現場(新地球紀行)

建築訴訟・建築裁判を起こす原告側、及び原告代理人の立場から考えると「負ける可能性が高い」ならば、

弁護士

これは、証拠が不十分で、
有利に裁判進行できないだろう・・・

「そもそも訴訟を起こさない」傾向があります。

これに対して、「訴訟に踏み切る」場合は、原告代理人の弁護士が非常に慎重に証拠を積み上げた上で、

弁護士

これならば、かなり高い確率で
勝つことが出来そうだ・・・

「必勝を期して」裁判を起こすことが多いです。

そして、「必勝を期して、損害賠償裁判を起こす」原告代理人のスタンスは、

弁護士

この見積書の数字が
根拠として強いだろう・・・

損害賠償の根拠となる契約書や見積書を万全に整えている場合が多いです。

いわば、「万全の体制」で裁判に臨んでくる原告に対して、被告側は「普通に戦うと敗訴する」傾向があります。

契約書や見積書等が「損害の根拠として明確」であれば、裁判官もまた同様に

裁判官

この見積書の金額の損害が
実際に発生したのだろう・・・

「被告は原告に損害を与えた」と認識するからです。

この時、「普通に戦わない」ことが大事です。

例えば、書証が工事請負契約書及び見積書であった場合、「契約書と見積書のみ」ということは少ないはずです。

工事である以上、設計図書や工程表などが多くの場合一緒に提出されます。

この時、「契約書を正」とする傾向が強い裁判官の発想に対して、

Yoshitaka Uchino

この設計図書は、
問題点が多く、見積書と不一致がある・・・

設計図書などをしっかり調べ上げて、なんらかの問題点を発見する方針が重要です。

「契約書や見積書とつながること」に「なんらかの問題点」があることが多いのが現実です。

そうした「なんらかの問題点」や「原告の主張に誤りがある点」を丹念に調べ上げるのが、大事な戦略です。

そして、それらの「相手方主張の問題点」を丁寧に積み上げてゆき、

Yoshitaka Uchino

この契約書、見積書は
書類として不合理な点が多いです!

合理的に「不合理な点」を主張することで、

裁判官

確かに、この見積書には
不合理な箇所が多い・・・

裁判官の心証を変え、原告の主張を崩すことが最も重要です。

裁判では、正面から奇襲攻撃をかける戦略が有効である場合があると考えます。

「正面奇襲」説が有力な桶狭間の戦い

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桶狭間の戦い(Wikipedia)

まだ26歳の若き織田信長が、戦国時代の日本に鮮烈なデビューを飾った桶狭間の戦い。

昔は「豪雨の中を迂回して奇襲攻撃した織田信長軍の勝利」という説が有力でした。

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桶狭間・田楽狭間の戦い(歴史群像 1992年6月号)

ところが、近年は「迂回奇襲」ではなく「正面奇襲」であった説が有力となりつつあります。

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戦国大名 織田信長(歴史群像シリーズ 図説・戦国武将118 学研)
織田信長

我が方の手勢は2,000ほどで、
今川軍は10倍の20,000ほど・・・

当時、豊穣な尾張の大部分を有していた織田家。

実は「今川家に大きな引けをとらない」経済力を持っていた説もあります。

一方で、そもそも守護で名家出身の今川に対して、「守護代ですらない」織田家。

ゲームのように「支配下の民衆から徴兵」ではなく、現実的には「織田家の影響力が低い」ことが影響したでしょう。

そのため、筆者は、通説通り「織田家の動員力は実数で今川家の半分以下」と考えます。

織田信長

これは
奇襲するしかない・・・

織田信長

だが、奇襲すると迂回するので、
兵は疲れてしまう・・・

織田信長

要は、今川家の意表をつけば
「奇襲攻撃同等」となるはず!

こう考えたであろう、軍事の天才・織田信長は「正面奇襲」攻撃によって、今川を倒したのでしょう。

「正面奇襲で制した」桶狭間の戦いのように、「なにか奇襲攻撃をする」ことは裁判では重要です。

相手方の書証・証拠等から「奇襲攻撃できる材料」を拾い上げる戦略が、極めて有効と考えます。

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